「もう無理です! これ以上あいつに好き勝手されてしまえば、この世界は壊れてしまいます。自らを神と名乗りこの世界を壊すやつ等をこのまま放置していればいずれあなたも……!」
悲痛に叫ぶ声が一つ。その言葉に手をぽん、と叩いた人物はいい事を思いついた。とニコリと笑う。その背後で、火柱が立ち、雷鳴が響き、海は怒り、空は灰色に染まり世界に影を落としこむ。
「よし、世界を分けよう」
「へ」
風がビュウビュウと音を立て回りの騒音を掻き消す中、パキパキと指を鳴らす音がはっきりと聞こえる。
「世界を壊す悪い子には、お仕置きしましょうねー」
ふん! と気合を入れて手を叩いた瞬間、ビリビリと震えた空気に背筋を凍らせる。立った数秒前まで、一つだった世界がシールを剥がすようにベリっと呆気なく分離した。
「あわわわわ」
焦る声が一つ。声の主は体から力が抜け、ぺたりとその場に尻餅をつく。奇妙な浮遊感を一瞬味わった次に目の前に広がったのはしんとした、とてものどかな景色が広がった。
青い空に、肌を優しく撫でる柔らかい風。青々と茂る木々に見えたのは穏やかな海。
驚きと焦り。起こったことが信じられず、目の前に立つ人物の背中を見上げれば、仕事をやり遂げたとばかりに腰に手を当て、「ふー」と満足げに体を伸ばし大きく息を吐いていた。
切り立った丘から見える大地は、切ないほどに静かで。愛しいほどに穏やかで、とても優しい風が大地を撫でている。
とても簡単に、そしてとても呆気なく世界は三つに分断されてしまった。
争っていたのは神と名乗る者達。
思想の違い、目指すものの違い。それぞれが異なった理想を掲げ剣を振るい、拳を突き上げ、空を汚し、大地を壊した。
神々の戦いを見届け、終焉を待ち望んだ世界は悲鳴を上げて涙を流す。
これ以上待ち望んでも終わりは見えない争い。幾戦もの時間を経て世界が自ら終止符を打った。
争い合っていた神々もまた、三つの世界に無慈悲に引き裂かれてしまった。
最も好戦的だった神は神界に、争いを好まなかった神は地界に、そして穏健派だった神は深界に。
そして後に世界は、天界、地上、魔界へと名前を変え変貌する。
「よし、家に帰ってご飯食べよう」
「そ、うですね……」
──これが、この世界の再生だと誰が信じることが出来ようか。
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