「この世界において、魔法剣士だなんてチートだと思う」
魔物によって転がされ、足を空に向けて体を壁に預けたまま眺めた空は、サンサンと太陽の光りを注いでいる。視線の先を大きな雲が流れるのを眺めながら、不満の声を上げた。
「はあ?」
腰に下げている鞘にするりと刀をしまいながら、フェイムを見下ろした青年は首もとの布を鼻まで覆い息を吐いた。
「チートって言うんならあそこに居るアイツのことだろう」
「あ~……」
ぱたりと足を降ろして、地面に寝そべり青年ことフレド・マーケルスの視線の先を見る。
そこには、泥だらけになったホープの姿があった。
「魔法も剣術も効かないとかチートにも程があるだろう」
「ホープはね~……なんなんだろうね。僕にもよくわからないや」
あはは、と笑うフェイムの元にガシャガシャと音を立て走るホープ。右足首をむんずと掴み、逆さにぶら下げる。
『マスター怪我シタノ? 治療スル? 今ナラ同ジニナレルヨ』
「ヤダヤダヤダー!! まだ人間やめたくない~!!」
『大丈夫、今ナラ半分大特価ダヨ』
「バーゲンみたいに言うな!」
片足をつかまれたまま、ブンブンと暴れるフェイムとホープを眺めたフレドは小さく溜息を吐いた。
「お前らはいつも楽しそうだな……」
「これが楽しそうに見えるっていうの!?」
『オレトマスター仲良シ』
目の部分をチカチカと光らせ喜びを表現するホープに、眉を下げ見えない口元を少しだけ上げて笑った。
「本当に、仲がいいな」
「どこが!」
『仲良シダヨ! フレドモ友達!』
当たり前のように言う。ホープのその言葉に少しだけ目を大きく見開いた後に、フレドはくしゃりと笑った。
「ああ、そうだな。お前と俺は友達だな」
『友達ー!』
ぶらんと、未だに逆さにぶら下げられたままのフェイムは何処でそんなに仲がよくなったのか腕を組み首を捻らせた。
「いつの間に仲良くなったの……?」
『ズット前カラダヨ!』
「前っていつ……! おわ!?」
肩車。というよりフォルムの関係で頭に乗せる形となったフェイムは世界が回転したことに驚きの声を上げ、ツルリとしたホープの頭に両手のひらで体を支えた。
「待て、走るな……」
顔を青くしたフェイムが「走るなよ」と言い終わる前に、体が揺れた。
『ワーイ!』
「ギャーーー!」
ガコン、ガコンと音を立て、森を駆け抜けるホープと泣き叫んでいるフェイムの姿に取り残されたフレドは、目元を細めて、ゆっくりと瞼を閉じた。
「相変わらず、馬鹿なことやってんなあ」
フレドの声を掻き消す、フェイムの絶叫が森を揺らし躍らせていた。
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