▽ 

 

「うわー! すごい機械の数ですね。これはハグルマにも置いてない……」 

「おー、これはこの大陸独自に進化したカラクリでなぁ。魔法が使えない人間でも人工的に魔法が使える代物さ」 

 

 薄暗い店内。目の前にあるのは機工師愛用の機械銃や探査装置。目を爛々と輝かせ、終始笑顔のフェイムを見てツナギの男も笑っていた。 

 

「いやー、それにしてもハグルマにはこんなカラクリがあるんだな。さすが機工都市!」

「あ、そいつはハグルマで造られたやつじゃないですよ」 

「おお、そうなのか……?」 

 

 腰に手を当てホープを見上げるツナギの男。ホープの顔を見ようと目の部分を覗き込む。 

 

『ハグルマッテナニ?』 

「うお、喋った!」 

 

 驚かすように目の部分の赤いパネルを点滅させる。ツナギの男は「言葉のやり取りができるのがすげぇな」と関心する。ツナギの男が目の前で軽く手を振れば、ホープも釣られて手を振った。 

 

「そう言えばホープにはキチンと説明してなかったな。バージョンアップも兼ねてホープが寝ていた時間の歴史もインプットしたほうがいいかもね」 

『バージョンアップ! 泳ゲル? 泳ゲル?』 

「お前なんでそんなに泳ぎたいの……」 

 

 わっ、とまるで花が咲いたかのように喜ぶホープにフェイムは少々押され気味になるが、にかりと笑って見せた。 

 

「まあ、僕に任せてよ!」 

『……失敗シナイデネ』 

「大丈夫、大丈夫。おじさん! 工房借りていいですか」 

「おお、いいぞ! 俺もそのカラクリ興味があるしな!」 

 

『大丈夫……カナァ……』 

 

 ホープの不安を他所に、フェイムとツナギの男は話に花を咲かせていた。 

 

 

 

「今、この世界は主に三つの大きな国で成り立ってるんだ。一つは剣技の国エストック。もう一つは魔大国グラマリィ。そして機工都市ハグルマ。これが今世界の中心にある大きな国になるんだ」 

『エストックト、グラマリィハ知ッテルケド、ハグルマハ聞イタコトナイ』 

「まだ歴史が浅いんだ。国として成り立ったのもここ数十年近くて。ハグルマは、古くから対立関係にあるエストックとグラマリィの中立の立場でいるんだ」 

 

 ドライバーでネジを回して、ホープの背中の古びた鉄板を剥がす。両足を投げ出し、座ったままのホープは充電が切れないように大きなコンセントで繋がっている。 

 

「ハグルマが何で昔からあるエストックとグラマリィに強気で居られるかと言えば知識財産が大きいな」 

『知識財産?』 

 

 フェイムの横で、火花を散らしながら傷一つ無い鉄板に穴を開けていたツナギの男が答えた。 

 

「そう。過去の大戦に使用されたカラクリ兵器を解体、解析。それを日常で使えるように改造、汎用したのが機工師達ってわけさ。今じゃ世界中にカラクリは欠かせないものになってるんだ」 

「カラクリの解体、製造ができるのは僕達機工師だけなんだ。魔導師や剣士がカラクリを改造したりするのは三ヵ国間の条例で禁止してるんだよ。じゃないと、また戦争が起きかねないからね」 

 

 戦争。その言葉にホープはポツリと呟く。古びて無数に傷が入っている掌を眺め、もう一度『戦争』と呟いた。 

 

「ホープ……?」 

 

 黙りこんだホープに気がつき、顔をあげる。どこか間違えて回線を切ってしまったのだろうかと、手元のコードの束を見たが、古くなっているだけで大丈夫だと思ったフェイムは作業を中断して、動けないホープの前に腰を降ろした。 

 

「ホープ、お前は何の目的の為にいつ、何処で作られたの……?」 

 

 ジジとホープの目の奥が鈍く光る。まるで瞬きをしているように何度か点灯する。その鈍い光をフェイムはじっと見つめていた。 

 

『マスターニ……』 

「え」 

『マスターニ造ラレタ。マスターハ友達』 

 

 マスター。その言葉にフェイムは自分ではなくホープを造った人物の事だと理解した。

 戦闘機能が全くと言っていいほど付いておらず、ただ話をするだけのカラクリロボット。それをどんな目的で造ったのか。なんでこんなにも人に近い感情をもっているのだろうか。 

 考えれば考えるほど分からずムムムと眉間に皺を寄せ、顎に手を当てた。 

 

『友達』 

「……?」 

『マスターハ友達』 

 

 真っ直ぐ視線を合わせるホープに、フェイムは笑って見せた。 

 

「うん……うん。お前とは友達だよ」 

 

 ほろりと零れた言葉に、ホープは嬉しそうに体を左右に揺らしながら何度も『マスターハ友達』と繰り返し呟いた。 

 確かめるように、何度も繰り返されるホープの言葉に何故だか目の奥が熱くなるのをフェイムは気が付かない振りをする。 

 

(……きっと、お前がもう一度会いたかったマスターは僕じゃないんだよ)