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船を下りてホープを特別乗車させてもらった礼も兼ね、積荷の降下作業を手伝い、船長達と別れを告げた。
フェイムは別れ際、船長に教えてもらった機械工房へ向かうべく床に置いていた荷物を背負い、また海を覗き見るホープに声を掛ける。
「ホープ、行くよー」
顔を上げ慌てるようにガシャンガシャンと音を鳴らしながら走るホープを見て「さて」とラウネが声を出した。
「僕もそろそろお別れするよ。何かあったら街の駐屯所に寄るといいよ」
「お世話になりました。ホープと一緒に船に乗れたのはラウネさんのお陰です。またどこかで」
右手を差し出したラウネの手を取り別れの握手。ニコリと笑うラウネが「クラウン様のご加護を」と指を切る。 それじゃあと、歩き出すラウネの背を見送ったフェイムは背負っていた荷物のポケットから、街のガイドブックを取り出し、ふむ。と声を漏らす。
ガイドブックを覗き見て、フェイムの頭越しにホープは疑問を投げた掛けた。
『ドコ行クノ?』
「んー、とりあえずこの港を降りて街に行くの。街には機械工房があるからそこでホープを少し小さくしたい」
『エ!? 小サク……?』
丸いフォルムの頭を触りどこか焦るホープを見て、フェイムは眉を吊り上げた。
「だって、お前でかいし。今回みたいに運よく貨物船に乗せてもらえればいいけど、いつもそう上手く行くわけないし。それに、今の技術ならもっとコンパクトに出来るし何より……」
『何ヨリ?』
「耐水性に出来る」
耐水性。その言葉を聞いてホープは感情を表すように目の部分の赤いパネルを点滅させている。
『泳ゲル? 泳ゲル?』
「うーん、どうかなー。モーターとか手に入れば遊泳機能つけれると思うけど」
フェイムの言葉に『ヤッター』と歓喜の声をあげ、ホープは錆び付いた足をガシャガシャと鳴らしながら船着場の出入り口まで走っていく。
「あ、待てよ! 勝手に走っていくなよ!」
『マスター、早ク』
「くっそ……足の速さを考えろ!」
ホープの姿はどんどん離れていく。疲れを知らないロボットと、荷物の降下作業を手伝い疲れていたフェイムとでは歴然の差。船着場の入り口を出て、小さな橋を渡り、港町の出入り口でピタリと足を止めた。
「ぅっぐ……きつい、もうムリ。ホープの野郎……」
ゼィゼィと肩で呼吸をし、呼吸を整える。街の中に走っていってしまったホープは大きいからそのうち見つかるだろう。とフェイムは走るのを止めて歩き出した。
港町の入り口から漂うのは海辺でしか味わえない料理の匂いに、賑わう人々の声。街の活気にフェイムは口元を緩める。
「うーん、何食べようかな。エビもいいし蟹も食べたいな」
お腹を押さえればぐううと主張する。船旅で疲れたのだ。ホープを探す前に一つ腹ごしらえをしようかと思い、露店を覗いた所で聞こえる喧騒。
フェイムは自分には関係がないと思い、露店の商品に意識を向けた。
「よう、坊主。イカ焼きでもどうだ」
「あ、美味しそう。じゃあそれ一つ下さい」
涎が出そうな顔で見ていたところを、露店の店主に笑われながら声を掛けられる。目の前でじゅわじゅわと美味しそうに焼けているイカ。そして美味しさを更に引き出そうと、店主特製の琥珀色に輝きを放つ。
「ありがとう!」
いただきます。喜んでその言葉を口にし、焼きたてのイカ焼きを一口、食べようとした瞬間。
「邪魔だ! 退け!」
「わあ!!」
ドン! と背中を何かに押され、思わず前のめりに扱けてしまった。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
腹の奥底から出る絶叫。
そして、ガラガラと車輪の音を立てながら騒がしく駆けていくのは馬車。
両手を地面に着け、ガクリと項垂れるフェイムに砂埃が容赦なく襲う。暴走したかのように船着場方面に走り抜ける馬車は、街の人達を薙ぎ払いながら駆けていく。
「だ、大丈夫か坊主」
「う゛う゛う゛まだ、一口も食べてなかったのに……」
両目からダババっと滝のように涙を零し、目の前で地面に落ちてしまったイカ焼きに歪めていた口元を食いしばった。
「絶対に許さん」
がばっと顔を上げたフェイムの瞳には怒りが篭る。心配そうに見る店主を他所に「うおおおお!」と叫びながらフェイムは馬車が向かった方向に駆けて行った。
「……食べ物の恨みって怖いな」
フェイムの背中を見送った店主の言葉に、その様子を見ていた人々は言葉無く、ただ頷いていた。
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